約 5,047,515 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/511.html
哀れなる傀儡に、祝福を(後半) 『己の戦いに自信を持て』。ロッテの言葉に、対戦相手である所の “あくまたん”は、何処か迷いを吹っ切った様な笑みを浮かべる。 猪刈に抑圧されていた何かが、どうやら湧き上がってきた様だな。 彼女の姿勢保持を待って、お互いに全力での砲撃戦を開始するッ! 「えいっ、えいっ……!!このバズーカで……貴方を倒しますっ!」 「わたしも、マイスターと自分の誇りに賭けて……負けませんのっ!」 「きゃうっ!御主人様の……ううん、あたしの為に、っあッ……!」 「ぶ、ぶっ!?何してるんだ“あくまたん”っ!早く壊せっ!!」 思いも寄らぬ展開に猪刈が大慌てを始めた。貴様の戦術ミスだぞ? 元々射撃管制に秀でたアーンヴァルタイプだ、砲撃戦なら負けん。 実弾中心の“あくまたん”に威力は補えても、精度までは無理だ。 ストラーフタイプの真髄は白兵戦闘、それを活かしてやらねばな。 「っ、きゅ、ううっ……うぁあっ!!?」 「追いつめましたの。まだ……やりますよね?」 「は、はいっ!あたしにだって、誇りがある……ッ!!」 「何わけわかんない事いってるんだよっ!早く撃てっ!!」 今回の舞台は廃工場。故にじりじりと、重火器型のストラーフタイプは ロッテのレーザーキャノンと拳銃に押され、袋小路へと追い込まれた。 散々喚き散らす猪刈を一瞥し、私はただ一つの指示をロッテに与える。 「よし……ロッテ、止めだ!一気に決めてしまえ!!」 「はいですのっ!“フライアークライス”の出番ですの♪」 「痛ぅ……え?天使の輪を、外した……!?」 驚く“あくまたん”を後目に、ロッテは頭部バイザーにセットされた 巨大な天使の輪を外して、電磁浮遊装置で宙に浮かべた。丁度それは レンズの様に、互いの姿を見通せる垂直状態で留まる。設計通りだ。 それを確認し、ロッテは槍を真っ直ぐに突き出した。その瞬間……! 「光学加速システム、ジャイロ同調……レーザードリル、展開!!」 「えっ!?きゃ、キャノンのレーザー光が……円錐状にッ!?」 レーザーキャノンとレーザーブレードは、本質的には同じ装置だ。 即ちレーザーキャノンでも射出光の恒常安定を行えば、剣となる。 そして“透明な環”に仕込んだ光学装置は、レーザーを増幅する! 従ってレーザーはリングを最大径として、ドリルの形状を為す!! 「その身に刻め……神儀、ブリッツ・シュピッツェッ!!!」 「きゃ、あああああっ!!」 「ぶ、ぶひぃぃぃいい~っ!?そんなぁああっ!!」 『ノックダウン!勝者、ロッテ!!』 相手は通路一杯に広がる“光輝の槍”で穿たれた。データ上では 完全に焼け焦げ、戦闘行動不可能が裁定された。勝負有りだな。 早速私はエントリーゲートから戻ったロッテを労って……むっ? 何やら、猪刈の方が騒がしい……私は側に行ってみる事とした。 「どういう事だっ!なんであんなのに負けるんだようっ!!」 「えっとっ……負けましたけど、あたしは精一杯戦いました」 「勝たなきゃダメだよっ、誇りだの何だのバカな事言って!」 「……あたしは後悔してません、自分の戦いですから……!」 己の誇りに目覚め、それを貫き通した事を笑って語るストラーフ。 普通の主ならそれに理解を持つだろう……だが、私は目を疑った。 「煩い煩いウルサイ!!主人に逆らう玩具なんか要らないッ!!」 「きゃ、きゃああぁぁぁッ!?!あぐ、ぐあ……──────!」 枝の様にへし折れる脚、殻の様に砕ける腕。ヒビの入る胴体に アメ細工の様にねじ曲がる首。弾ける火花と耳障りな破壊音! そして悲壮・苦痛・絶望の心に満ちた、彼女の叫び……ッ!! 彼奴は己の神姫を床に叩き付け、無惨に踏みにじった……!! 「き、き……貴様ぁああああっ!!!」 「ひっ!!ぶぎゃうっ!?な、何!?」 次の瞬間。思うより早く私の腕は奴を捉え、壁に押しつけていた。 傷害罪だと?訴えるなら訴えるがいい!私は彼女が不憫でならん! 猪刈めは脂汗を流しながら、体格面で遠く及ばぬ私に怯えている。 「貴様は人間か!?彼女はお前の為に、誇りを賭けて戦ったのだぞ!」 「な、ななな……何言ってるんだよ、ゲームに使う駒じゃないかよっ」 その言葉を聞いた瞬間、私は跳躍し膝を奴の喉元に突き込む…… 前に止めた。こう見えて躯は柔軟なのだ。ハイキック寸前だな。 案の定猪刈はへなへなとその場にへたり込み、泣き出しおった。 ……念のため言っておくが、私はスパッツ常備だ。期待するな? 「ぶ、ぶひぃぃぃ……あ、あたるところじゃないかぁ……何するっ」 「貴様が駒と見下した者は、より激しい苦難に身を晒したのだぞ!」 「そ、それがどうしたんだよ……所詮玩具じゃんか、人形じゃんか」 「ッ……ならばこの娘を置いていけ!貴様には要らんのだろう!?」 お前が踏みにじった“物”は、お前に尽くしたかった“者”なのだ! それを理解できぬ者がこの娘を手元に置くのは、私の魂が許さんッ! 多分今の顔は、般若等より余程怖いだろう。それだけ怒りが深い!! 「う、ううっ……このガキ、今度逢ったら泣かせてやる~っ!」 「神姫にしか強く出られぬ貴様になど一生無理だ、たわけッ!」 猪刈は自分の荷物だけ纏めると、喚いてさっさと逃げていきおった。 今度逢った時には、二度と悪さが出来ぬ様……いや、今はそれよりも “あくまたん”であった彼女を治療する事こそ先決……そうなれば! 「誰か車は出せんか?!修理出来る場所へ運ぶ!手伝ってくれ!!」 「あ。オレ出せるっすよ、槇野さん!どこまででも出せるっす!!」 「おおっ、常連の田中ではないか!助かるッ!場所は──────」 ──────気高くも哀れなる魂に、今一度祝福を……。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/gensouiri/pages/3254.html
東方神姫 動画リンク コメント 東方神姫 作者 デルタ38 ひとこと 主人公 その他 2059人目の幻想入り 動画リンク マイリスト mylist/33324511 最新作 一話 コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1199.html
水辺に泳ぐ女神達──あるいは入水(前半) 2037年の夏もピークを過ぎ、秋の気配が密かに忍び寄っている。 私・槇野晶も稼ぎ時に働き、また“妹”たる神姫達と共に様々な所へ 物見遊山に出かけたが……思えば“夏らしい事”は余りしていない。 そこで、私は彼女らにこんな提案をしてみる事としたのだな。有無。 「なぁ、皆……八月最後の定休日、ここは一つ泳ぎにでも行かぬか?」 「え?!い、いいんですかマイスター?でも、水着なんてあります?」 「案ずるな、ちゃんと作っておいた。だからこそ、今日しかないのだ」 「……塾の宿題も終わったし、それならボクらも安心して行けるかな」 「でも……マイスター、本当に……ほんっとうに“大丈夫”ですの?」 ロッテが、何度も念を押す様に私を見上げて問い掛ける……そう言えば あの事を知っているのは彼女だけだったか。心配するのも無理はない。 だがそれ故に連れていってやらないというのは、“妹”達が可哀想だ。 「む……正直、カナヅチが治ったとは言い難い。苦手は克服したがな」 「ふぇ?ま、マイスターって泳げないんですか?そんな印象は~……」 「……泳ぎが下手なだけであって、入水即溺死等という事はないぞ?」 「それでも意外なんだよ。インドア派でも結構動くもん、マイスター」 「歩くのはいい、走るのも蹴るのもな。だが……イマイチ泳ぎはなぁ」 準備をしつつも私は鼻を掻く。何故か水が苦手でな、理由は分からん。 ロッテと暮らし始めたばかりの頃は本当に酷くて、文字通り溺れたな。 今はマシだが、まだまだ自在に泳げるとは言い難い。浮き輪は必須だ。 と言う訳で愛用の浮き輪を、空気を抜いた状態でバッグへと押し込む。 ……待てそこ、笑うな!?猫柄の浮き輪位、別に構わぬだろうがッ!! 「なら、アルマお姉ちゃんは……クララちゃん、お願いしますの♪」 「わかったんだよ。これもマイスターの為だもんね……大丈夫かな」 「いざとなったら、あたしが動きますから……って、マイスター?」 「……いや、さっきから何を相談している?皆、準備は出来たのか」 貴様らを咎める間、ロッテ達は何事か密談をしていた様だ。気になるな。 まあ、深く追求してもしょうがない。皆が水着と足ヒレ等を用意したのを 見届け、私も替えの服やアンダー等をバッグに詰め込んで、ビルを出る。 照り付ける様な“クレイジーな”暑さを堪えつつも、ノースリーブの私は 両肩と胸ポケットに神姫を搭載するお決まりのスタイルで、電車に入る。 「ふぅ……ミストでワンクッション置いても、この寒暖差は堪えるな」 「相変わらず、車両の冷房は殺人的に効いてるんだよ……電気の無駄」 「MMSのあたし達は何ともないですけど、マイスター大丈夫です?」 「む?少々冷えるな。ビルの居住区も結構エアコンは効かせてあるが」 「でも個人的な好みに配慮がない分、ここの方が数段寒いですの……」 ぼやいてもしょうがないとは理解しているが、流石にこれは肌に悪い。 極力風の当たらない席に座り、急ぎ海浜区域のレジャー施設を目指す。 夏休みの盛を過ぎた今ならば、都心と言えども混雑は若干緩和される。 案の定、たどり着いたプールの人混みはテレビで見る程多くなかった。 「さて、着いたぞ皆。まず入場券を買ってと……大人一人頼めるか」 「え、え?あのお嬢ちゃん?……お父さんかお母さん、いないの?」 「馬鹿者ッ!この通り、私は子供料金ではないぞ!……それからだ」 「す、すみませんすみませんっ!……え、これは武装神姫、です?」 最初から子供扱いする不埒な受付嬢を喝破し、“妹”達を台へ降ろす。 彼女らの扱いがどうなっているのか、今回はリサーチしなかったのだ。 という訳で、彼女ら自身の口から自分達の処遇について聞いてもらう。 「はいですの♪わたし達は料金とか必要ですの、受付のお姉さん?」 「え?え、えーと……持ち込みはいいですけど、水は大丈夫です?」 「はいッ。水中で胸を開いたりしなければ、なんともありません!」 「そう言う物なんですね……わ、分かりました。でも壊れても……」 「弁償はしない、だね?それ位はボクらも分かってるもん、大丈夫」 受付の若い娘は、神姫を知っている様だった。説明の手間が省けたな。 そう言う訳できちんと私の入場料を払い、四人で女子更衣室へと赴く。 ……こら、此処からは見るなッ!!女子の着替えを覗くな貴様ぁッ!? 「マイスターの水着はセパレートタイプなんですの?ってこれは~……」 「有無、お前達と同じデザイン……というより、この水着を元にだな?」 「あたし達の水着を作ったんですね?柄や色は違ってますけど……ふふ」 「皆、お揃いなんだよ……パレオまであるもん、マイスターに感謝だよ」 ──────ちょっと遅い夏、精一杯堪能するよっ。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1088.html
戦うことを忘れた武装神姫 - type_S -06 皆様、こんばんは。 神姫との生活、いかがお過ごしでしょうか。 キャッキャウフフも、ドキドキハラハラも。そして、夜の生活も。 それぞれに、それぞれの生活があることでしょう。 しかし。 世の中には、本当は怖い神姫との生活というものもあるのです。 今宵は、その一部をご紹介しましょう・・・。 ・ ・ ・ ・ ・ ~めざまし神姫・Phase-4:ストラーフの場合~ 朝。 目覚まし時計の電子音が部屋に響く。 「・・・。」 布団から手がぬっと出てきて、器用に目覚まし時計の電池を外した。 電子音が止まると、再び手はずるずると布団の中へ。 「うふ、うふふ・・・。」 電池の外された目覚ましの隣で、寝息をたてる男の顔をニタニタしながら見つめるストラーフ。 もぞもぞと近寄って、男の頬をつついたり、鼻先をつまんだり。 しかし、男に起きる気配は・・・無し。 「ヌシさんの寝顔・・・かーわいい~。 えへ、えへへ・・・」 起きそうもないことを確認したストラーフは、ごそごそと男の布団に潜り込む。 ぽこっと頭だけを出し、 「添い寝ー!」 と、しばらくゴロゴロと悶えたかと思うと、男の頭によじ登りどこからか取りだした「登頂記念」と書かれた旗を立ててみたり。 眠り続ける男と(一方的ではあるが)戯れて、時折頬を赤らめたりしつつ・・・ やがて、本当に添い寝してしまった。 男と並び、心の底から安心しきったような穏やかな顔付きで、すぅすぅと小さな寝息を立てるストラーフ。。。 ・・・数時間後。 「はっ!!!!!」 男が飛び起きた。 傍らの目覚ましは・・・針が動いていない。 壁に掛けられた時計を見るや、男は絶叫。 「やっべーーー!!! 遅刻どころの騒ぎじゃなーい!!!!」 時刻は午前11時。 「ちょ・・・ストラーフ! お前が今日の目覚まし当番だろ?!」 「むにぃ・・・おはよう、ヌシさん。 ・・・起こしたよ? ほっぺたつついて。」 「ガーッデーム!!! 何しても良いから起こせと言ったろうが!!!」 「えー。 でもでも・・・」 「あー、もうっ! それどころじゃないz・・・」 慌ててベッドから降りようとして勇み足となりそのまま転倒、前転しつつ部屋のドアにぶちあたる男に、上方に掛けられていた時計が落下、見事に頭に命中。 しかしさっと立ち上がり、寝間着から着替えようとするも、ズボンの片側に両足を突っ込んでしまい再び転倒。。。 その惨劇をケラケラと笑いながら見ていたストラーフ、 「・・・あのさぁヌシさん。 今日は旗日だよ。」 と、頭を押さえつつ悶える男に卓上カレンダーを差し出した。 男はひったくるようにカレンダーを手に取り、携帯電話の日付と照合。。。 ぎぎぃ・・・と、怒りと悲しみの入り交じった目でストラーフを睨み付けた。 「お前・・・なんで先に教えなかったんだ?」 「だって。 知っていると思ったし。 それに・・・ヌシさんと添い寝もしたかったし・・・」 サイドテーブルの上でもじもじするストラーフに、つり上がった目尻がすぐさま下がる男。 「・・・なんだよ。 それなら夜のうちに言えばいいのに。 全く。。。」 男はストラーフを手に乗せて、指でそっと頭を撫でてやった。 ストラーフは目を細め、小さく頷いた。 ・・・と、ストラーフはふと思いだしたかのように、悪戯っ子の笑みを浮かべて男に言った。 「それにしてもヌシさんの慌てっぷり、すごく面白かったよ。 うまく填めた甲斐があったってもんよ。 また今度も上手く罠に填めるから、もっともっと慌ててみてねっ!」 もしかして・・・ウチはストラーフに、神姫に弄ばれているのか・・・?! 突然、虚しさに襲われる男。 ウチ、神姫を飼っているのではなくて、神姫のおもちゃにされているのでは。。。 考えているうちに、男は怒る気すらも失ってしまった。 神姫との生活。 それは、主従関係が逆転することもある、恐ろしい日々。。。 <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1583.html
ハウリングソウル * 第四話 『神姫センター・謎の生命体出現!?』 「・・・・・ふむ、今日も今日とて客は来ないな」 今日、朝に店を開いてから来た客は四対の神姫を連れた騒がしい男が一人だけだった。 それにしても彼、随分と大変そうだったな・・・・まぁ、大変でも上手くやっていけているようだから問題は無いのだろうが。 「暇だなぁ・・・・・いっそ店を終わりにしてゲーセンか神姫センターにでも行こうかな・・・・・ハウの調子も見ときたいし、ノワールのガトリングの弾もなぁ・・・・」 無表情のアッパーシューター・ノワール。 台所とかに出没する忌々しい黒い悪魔を見るとすぐに武装して追い掛け回すのだ。 追い掛け回すならまだいいのだがチーグルの両手にガトリング、ノワール自身は両腕でミニガンとか抱えているから恐ろしい。 ハウもハウでチーグルの背中に乗って楽しんでるし・・・・お陰でうちの神姫用の弾代はかさむ一方だ。 まぁ副業の収入があるから貧乏ではないのだけれど。 ・・・・・私はレジに置かれた“彼”の写真を見る。 写真の中の“彼”は時が止まったかのようにあの時のままだった。 「・・・・・・お前のせいで、只でさえ白けていた気分がさらに白けたぞ」 私は写真に向かって悪態をつくと椅子から立ち上がる。 やる気が無くなった。 昼寝をしているあいつ等を起こして遊びに行こう。 神姫センターは平日の午前中ということもあってか、人影がまばらだった。 まぁ今の時間帯にここにいるのはサボりか自営業か夜間に働く奴らくらいだろう。 「マスター。本当に良いんですか? お店閉めてきちゃって」 ひょこっと、私の胸ポケットからハウが首だけ出して言う。 「別にいいよ。生活のためにやってるわけでもないしね」 私はハウにそう返してからとりあえず受け付けに向かって歩き出した。 一方、ノワールは不思議そうに人の少ない神姫センターを眺めている。どうも人が少ないのが新鮮らしい。 「すいません、吉岡さんはいらっしゃいますか。神姫の様子を見てもらいに来たんですけれど」 私の質問に若い店員が答えた。胸のネームカードには『玉川』と書かれている。 「吉岡様なら神姫用医務室の方にいらっしゃいます。医務室は ―――――」 「いや、良い。場所なら知ってますから」 そういって医務室に直行する。後ろのほうでさっきの店員が同僚にからかわれているのか、『マジで勘弁してください』と言うのが聞こえた。 「ヤッホー、久しぶりじゃないのみーちゃん。調子はどう?」 神姫用医務室の扉を開けた瞬間にオネエ言葉の野太い声が聞こえた。神姫用医務室のカウンターには身長2メートル近い大男が鎮座していた。 彼の名前は吉岡 昴(よしおか すばる)性別男のオカマである。 身体的特徴としては筋骨隆々にスキンヘッド、気分しだいでウィッグを被ったり被らなかったりな状態にサングラスが一日おきに変わる謎の生命体である。それ以前にこいつは本当に日本人なのだろうか。 ・・・・ついでに言うと“みーちゃん”と言うのは不本意ながらも私のあだ名である。 「・・・私の調子は悪くないのだがね。というかいつもいつも疑問に思うのだがなぜキミがここで働いているのかな」 「いやねぇ中学以来のお友達にそんなこというなんて。私がここで働いてるのは素直に神姫が好きだからよぉ」 「嘘をつけ。受付の男が目当てだろう」 「さて? 何のことかしらね?」 妙にくねくねとしたポーズでしらばっくれる吉岡。ってそんなことはどうでもいい。 私は妙に楽しそうに吉岡と私の会話を見ていたハウを指先でつまむとそのまま手のひらに乗せた。 「今日はこいつの健康診断に来たんだ。診てやってくれ」 「あらあらハウちゃんもお久しぶり~!」 「お久しぶりです。吉岡さん」 人の話を聞けオカマ。 ハウも普通に応待するな。 ちなみにこの間中、ノワールは胸ポケットから腰のウェストポーチに移動して丸くなっていた。 どうも吉岡のハイテンションが苦手らしい。 私は手のひらに座ったままのハウを机の上に移動させる。 「とりあえず普段どおりの検診で頼む。私はどっかそこら辺で暇を潰すから」 「マスター・・・・行っちゃうんですか?」 私がそういうとハウは少し悲しそうな顔をして上目使いでこちらを見上げてきた。 ・・・・・ごめん。正直たまりません。 「・・・・そうだな。なんならここで待っても ―――――ぐっ!?」 何だ!? 突然腰に刺すような痛みが!! 慌ててウェストポーチを開けるとそこにはアングルブレードを持ったノワールが丸くなっていた。 「・・・・マイスター・・・・買い物、行く」 ・・・・・・恐っ! 悪魔型恐っ!! 「はいはい判ったよ。一刻も早くお前はここを離れたいんだな?」 「違う、買い物・・・・行きたいだけ」 そっぽを向いているのは微妙にすねているのだろうか。 ノワールとの付き合いは長いがたまに何を考えているのか判らない時がある。 「そうねぇ・・・・一時間くらいで終わっちゃうから少しバトルでもしてきたらどうかした? 今日はね、凄い人が来てるのよ~!」 楽しそうに野太い声で吉岡は言う。と言うか同僚の女性職員がさっきからこっちを見て笑っているのがとても気になるのだが。 「吉岡さん。凄い人って?」 ハウの質問に吉岡は上機嫌に答える。 「天使型の人なんだけれどもねぇ。物凄く速くてもうだれも追いつけないのよ! ライトセーバー二本とビームライフルだけでまだ負け知らずだし! 後はセイレーン型の人もいてねぇ。こっちは何と接近戦用のエウロスっていう剣みたいな武装だけで勝ってるのよ!」 ・・・・・・・・・ふぅん? 随分と極端な武装を組む奴もいたものだ。 遠距離に持ち込まれた場合はどう対応するつもりなんだろう? 私も話に加わろうと口を開いたらその瞬間、今度は控えめに刺す様な痛みが腰に走った。 ・・・・・もう見なくてもわかる。 突きつけてるなこれは。 「それじゃ私は適当に暇を潰しているよ。・・・・ハウ、この巨大スキンヘッドに何かされそうになったら大きな声で助けを呼ぶんだぞ」 私の言葉にはハウは苦笑しながらもしっかりと肯いた。 うん。良い子だ。 私の頭よりもはるか上空から何か不満そうな声が聞こえたが無視して医務室をでた。 NEXT
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1123.html
{武装神姫についてと俺について} あの事件(俺の後頭部が机に炸裂)してから一週間が経った。 それからというものの、アンジェラス、クリナーレ、ルーナ、パルカは色々な事をしはじめた。 アンジェラスとパルカは料理や掃除がやりたいと言い、俺は武装神姫用の包丁や掃除機とかを作り渡した。 クリナーレは何か運動するものが欲しいと言い、武装神姫用のダンベルとか作り渡した。 ルーナはパソコンがやりたいと言い、俺のパソコンを貸した。 まぁ、人それぞれに趣味があるのは当然な事。 だから俺は、こいつ等が何が欲しいとか何が必要とか言われれば作ったり準備してやった。 だが、やる分には構わないが余計な事はしないで欲しかった。 アンジェラスとパルカは料理にしろ掃除にしろ全然道具の使い方が酷かったために台所は地獄と化し滅茶苦茶になる、クリナーレはダンベルをグルグルと回し俺が『危ないぞ』と言った瞬間にクリナーレがダンベルを持った手がすっぽ抜け俺の顔に命中する、ルーナは俺のパソコンに入ってる秘蔵のコレクション(主にエロゲーとか…)をやろうとするし。 もう酷いの一言しか出ない。 そんな感じに生活してい訳だ。 俺はというと武装神姫について調べていた。 武装神姫とはなんぞや。 まぁ、この一週間で大抵解った。 自分の武装神姫を他の神姫と戦わせたりトレーニングをやらせて育てる。 ゲーム風で言えば育成シュミレーション。 悪く言えば娯楽のための人形遊びだ。 しかもこの武装神姫は結構奥が深く、色々とヤバイ噂もある。 表の世界は武装神姫を普通に育てる。 なら裏の世界はどうなのだろうか。 実は裏の世界は現実的に酷いものばかりだった。 市販されてる武器を改造したりオリジナルの武器を作って、その武器を使って神姫達に闘わせ、どちらかが破壊されるまでやらせるデスマッチ。 軍事利用で暗殺型用とかスパイ型用に武装神姫を作ったり。 人間で言うドーピング…神姫用のドーピングを使って身体的と能力的を強くさせたり。 後はそうだな…愛玩用にする。 簡単に言えばダッチワイフだな。 そりゃあ人間の女の形をしてるんだもん。 作りたい気持ちは解るが、俺にとっちゃぁそんなのただの外道としか認識できない。 そんなにやりたければ性風俗店に行けばいいのに。 とまぁ、一応代表的なものを上げた。 そんな奴等を俺はアンダーグラウンドの住人と思っている。 表があれば裏がある。 世の中よく出来てるぜ。 けど、俺はどちらかと言うとアンダーグラウンドの方の人間だな。 勿論、アンジェラス達にそんな下らない世界の武装神姫には絶対させない。 こいつらを預かってる姉貴にも迷惑がかかるしな。 まず第一に俺のプライドが許せない。 「ねぇねぇ、アニキー」 そう無垢なる彼女達を守らなければ。 「アニキってばー」 俺はそう心に誓ったのだ。 「シカトするなー!」 ギューーーー! 「イッテー!?」 クリナーレが俺の髪の毛を引っ張る。 結構、痛いです。 「ボクの事をシカトするなよ!」 「…イテテテ。あぁ~悪かったな。で、何か用か?」 引っ張られた髪の毛を摩りながらクリナーレの用を聞いた。 するとクリナーレは一丁の銃を取り出した。 その銃は名は『モデルPHCハンドガン・ヴズルイフ』という武装神姫用銃である。 神姫ショップで一般的に売ってる銃。 だが、クリナーレが持っている『モデルPHCハンドガン・ヴズルイフ』はちょっと違う。 何故なら…俺が見よう物真似で作った銃なのだから。 「ゲッ!?クリナーレ、その銃を何処で見つけた」 「え~と、隣の部屋の机に大事そうに飾られてたから、そこからちょっと借りただけだよ」 「まだ使っていないだろうな!」 「う、うん。もしかして怒った?」 クリナーレは申し訳なさそうな顔をした。 「いや、怒ってねぇーよ。他の皆はその武器や他の武器の事知ってるのか?」 「今の所、ボクだけだと思う」 「そうか。よかったぁー」 「よかった?」 「あ、こっちの事だ。でもちょっと皆に話す事が出来たな。クリナーレ、皆を呼んで来てくれ。それと銃は没収だ」 「えー、今からこの銃でトレーニングしようと思ったのにー」 「話が終わったら嫌になる程使わせてやる。だから皆を呼べ」 「約束だよー」 不満そうにクリナーレは俺の左手の手のひらに乗り、俺は地面に左手を置くとクリナーレはアンジェラス達を呼びに行った。 もう見つかってしまったらしい。 あの銃には色々とやっかい事があるというのに。 いや、あの銃に限らず他の武器も色々とヤバイ。 これで今まで黙ってきた事がバレる。 でもまぁ、何時かバレる日はくる。 なら日が浅いうちに言っとくべきかもしれない。 「みんなを呼んで来たよー」 クリナーレが戻って来てその後ろにはアンジェラス、ルーナ、パルカの順に来てくれた。 「何か御用ですか?」 「遊んでくれるの?」 「まさか、私達をリセットするんじゃ…」 「まぁ用事といえば用事かな。それとパルカ。リセットなんかする訳ねーだろうが」 ホッとするパルカ。 まったく、何処まで臆病なんだよ? そんなに俺が怖いのか? もしそうならちょっとショックだな。 って、今はそれよりも。 「それじゃみんな。俺の肩に二人ずつ左右に乗っかってくれ。地下に案内するからさぁ」 「へぇー、地下なんかあったんだこの家。ボク知らなかったなぁ」 「地下でエロい事するつもりですわね」 「んな訳ねーよ。それともルーナだけ放置プレイしてやろうか?」 「放置は嫌ですぅ~」 ルーナはルーナで何だかエロ方面の方向に話そうとするし。 ちょっと、ムラムラとくる言葉に誘惑される俺だが理性が強い俺はそう簡単に落ちないぜ。 俺は中腰をして机と同じぐらいに肩の高さ合わせる。 トコトコ、と俺の方に移動するアンジェラス、クリナーレ、ルーナ、パルカ。 右肩にクリナーレ、パルカ。 左肩にアンジェラス、ルーナ。 みんなが肩に移動し終わると俺は地下に向かった。 …。 ……。 ………。 「ここがそうだ」 パチ、と電気を入れ部屋が明るくなる。 とても大きな部屋で壁は無機質なコンクリートで覆われ、机が二つと色々な道具が置かれている。 なんとも味気の無い部屋。 肩に乗せてるアンジェラス達を机に下ろし、クリナーレだけ右手の手のひらに乗っける。 アンジェラス達は『なんでクリナーレだけ』と不思議そうに思った。 俺はすぐその場に厚さ10ミリのドアぐらいの大きさの鉄板が置かれてる場所まで行き。 「こいつを撃つんだ」 クリナーレに命令した。 命令した後、鉄板から7、8メートル離れてから先程クリナーレから取り上げた『モデルPHCハンドガン・ヴズルイフ』を渡す。 クリナーレは俺から渡された銃を構える。 とても綺麗な構え方だ。 やはりそのようにプログラムされているのだろうか? いやいや、その考えは止めとこう。 俺は彼女達を人間同様に扱うと決めたばかりじゃねーか! 左手をクリナーレの背中に触れるギリギリでとめとく。 この行為が無駄になれば嬉しいのだが…。 「せい!」 バキューン! 「うわぁ!?」 「クゥッ!」 撃った衝撃でクリナーレが後ろに吹き飛ばされて、俺が予め用意していた左手でクリナーレを掴み助け、すぐさま右手でクリナーレ覆う。 だが助けた俺の身体はクリナーレが撃った衝撃を全て受けたため、バランスを崩し尻餅をついてから倒れた。 「ご主人様!?」 「ダーリン!?」 「お兄ちゃん!?」 机の上で叫び心配する三人。 「安心しろ、大丈夫だ」 俺は上半身だけ起こし、閉じた両手を開いてみる。 どうやらクリナーレは無事みたいだ。 けど自分を両手で抱くように縮こまって小刻みに身体を震わせている。 いったいどうしんだ? 「クリナーレ、大丈夫か?」 「…あ、あっ…アニ…キ…」 涙目になっているクリナーレ。 どうやら銃を撃った反動で恐怖を感じたみたいだ。 無理もない。 市販で売ってる銃はあんな反動は無いからなぁ。 やっぱり撃たせるんじゃなかった。 クリナーレを怖らがせてしまったのだから。 「大丈夫。もう大丈夫だ」 「アニキ…ボクは…」 「何も言うな、怖かったんだろう。なら今は甘えていいんだぞ」 「アニキー!」 クリナーレが俺の胸元の服を両手で掴んで泣く。 「怖らがせてゴメンな」 俺は謝る事しか出来ない。 所詮その程度の人間。 「ご主人様、大丈夫ですか?」 「ホッ。案外大丈夫そうね。心配したんだからねー」 「よかったですー!姉さんもお兄ちゃんも無事で!!」 「お前等…」 アンジェラス、ルーナ、パルカが俺の左太もも辺りで心配そうにしていた。 あの高い机からどうやって飛び降りたのだろう。 まぁ今はいいや。 こいつ等も安心させないとな。 「俺は大丈夫。ただクリナーレが怯えちゃったかな。ワリィ事しちまったぜ」 「いえ、ご主人様は悪くないですよ」 アンジェラスが俺を慰めてくれる。 何故、こいつは俺の事をここまで気にかけてくれるのだろうか? まるでアンジェラスだけが特別な神姫みたいに感じる。 「サンキューなアンジェラス。みんな、あれを見てくれ」 顔で合図し、鉄板が置かれてる場所を見てもらう。 アンジェラス、ルーナ、パルカは鉄板が置かれた場所を見る。 「そ、そんな…」 「…うわ~」 「…酷い」 三人はそれぞれ別の驚愕を示した。 三人が見た物は、鉄板が二つに別れ真ん中の部分は粉々に吹き飛んでいた光景だ。 たった一発の弾丸で頑丈な鉄板が半壊の粉々。 とんでもない威力だ。 「あの銃は俺が作ったんだ」 「そんな!だって、あれはどうみても」 「市販されてる『モデルPHCハンドガン・ヴズルイフ』の銃って言いたいんだろ、アンジェラス」 「そ、そうですけど」 「あの銃は見ようもの真似で作った物だ。…姉貴が武装神姫関係の会社で働いてるのを知っているよな」 無言で頷くアンジェラス。 目は真剣そのものだ。 「俺は何か物を作るのが好きなんだ。まぁ趣味みたいなものだな。それで姉貴の会社に行き、武装神姫関係の武装や装備のデータをパクッて、それをベースにして俺が作ったオリジナルの武器が出来上がる訳よ」 「ご主人様…もしかしてご主人様は…」 「そう、俺は違法な武器を作っちまった。他にも色々と悪い事を沢山やってきた…犯罪者という訳になるかな」 アンジェラス、ルーナ、パルカは沈黙した。 まさか自分のオーナーが武装神姫の違反者だとは思わなかったのだから。 しばし無機質な部屋の沈黙が訪れた。 だがその沈黙はすぐに消えた。 「そんなの…関係ないよ」 声の主はクリナーレだった。 泣いたせいか目が充血していた。 「アニキは酷い奴じゃないよ!実際こうしてボクの事を守ってくれたあげく、心配までしてくれるんだから!!」 「クリナーレ、お前…」 「アニキ!ボク達は例えアニキが悪い事をしていても大丈夫!!ねぇみんな!!!」 必死で俺を庇うクリナーレ。 嬉しかった。 ここまで他人のために言ってくれる奴はそう簡単にいない。 「クリナーレ、大丈夫よ。私達が、ご主人様を軽蔑するわけないじゃない」 「そうよ。この一週間一緒に暮らしたけど、とても悪人面に見えないしダーリンはとても恥ずかしやがりさんなだけですわ」 「姉さん、私はお兄ちゃんに色々な事を教えてもらいました。私に教える時のお兄ちゃんは笑顔で言ってくれます。そんなお兄ちゃんが悪人には見えません!」 今度はアンジェラス達が言ってくれた。 まったく、どうしてこいつ等はこうも馬鹿なんだろうか? 犯罪者が悪人に見えない。 馬鹿じゃん。 本当、お人よし過ぎる馬鹿者達だ…こいつ等は。 嬉しくて涙がチョチョギレルわい。 「ほんと、お前等ていうやつは…」 こいつ等といると俺の心はなんだかとても軽くなる。 今までやってきたった行いは殆ど悪い事が多い。 それも生きる為という肩書きという理由で…。 まぁ色々悪行三昧してきた訳よ。 なら今から俺がやってきた罪はどうやって償うべきか…。 罪は後で考えるか、今はこいつ等のめんどうみる事が最優先だ。 「よし!気を取り直すついでに飯でも喰うかぁー!!」 ガバッとアンジェラス達を両手で掬い上げ俺の胸に抱き寄せる。 少し恥ずかしいけど俺はアンジェラス達にニコヤカに笑って見せた。 「ご主人様!」 「アニキ!」 「ダーリン!」 「お兄ちゃん!」 「今日は俺の手作りの飯だ。心して喰えよ!」 「嬉しいです、ご主人様」 「やったー、アニキの手作りの料理美味いだよなー」 「あらあら、生活費がヤバイのにそんな大盤振る舞いしていいんですか?」 「ルーナさん、お兄ちゃんの事ですから大丈夫ですよ」 ワキャワキャっと喋りにながら一階に向かう。 これからはこの大切で大事なひと時を俺は守っていこうと思った。 今日の出来事で今までの俺にさようならし、俺は新しくなった。 さぁー、俺の新たな生活の始まりだ!
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1542.html
曙の女神達──あるいは新年三ヶ日(前半) い、いた……頭が痛い……私は、わたしは……ああそうだ、槇野晶。 今日は、確か……えと、そうだ。一月一日、新年を迎える頃か……。 しかし、なんかこう胸の辺りがスースーする様な……な、何ぃッ!? 「うわぁっ!?な、なんだこの格好は!それに……お前達何をッ!?」 「わふぅ……ん、んんぅ~……あったかいんだよぉ、マイスター……」 「はぁ~♪……う、うわわ!地震、地震ですのぉ~!?わきゅっ!?」 「痛たたぁ、えと……朝、ですか?マイスターおはよ……きゃっ!!」 「お、おはよう!というか明けまして、いやあっちを向いてくれッ!」 私は……正確に言うと私達は、主に私のあられもない艶姿に赤面した。 ブラウスは大きく乱れ、その……見えていた。貴様は見ていないな?! 『何を』だと!?聞くな、神田川に沈めてやるぞ!あっちを向けッ!? ……ふぅ。しかし何故、私の胸で“妹”達が子猫の様に寝ていたのだ? 慌てて振り落としてしまった三人を拾い上げて、状況の把握に努める。 「はふぅ……な、何なのだ一体。どうも、昨晩の事が思い出せぬ……」 「……ふぁぁ、それは多分コレの所為なんだよマイスター、ほら机の」 クララが、最近置いた小型炬燵の上にある茶色の瓶を示す。どう見ても それは……私が、店内を浄める為にと買ってきた日本酒の小瓶だった。 神仏を信じるか否か以前に、こういう“儀式”自体にこそ意味がある。 故に呑めぬ酒を買ってまでしているのだが、今年はそれが仇になった。 「ぐ、御神酒か……そうか、酒気に当てられてその後……ロッテか!」 「え、えへ……マイスターがクラッとしてる隙に呑んじゃいましたの」 「吃驚しました、昨日は。ロッテちゃんがあたしに、流し込んで……」 「もういい皆まで言うなアルマ……全く、質の悪い悪戯だぞロッテや」 「ロッテお姉ちゃんの“酒癖”が悪いの、すっかり忘れていたんだよ」 真っ赤になって己の悪戯心を恥じ、尚克微笑むロッテ。可愛らしい…… と言ってばかりもいられん。時刻は早朝、“アレ”は間もなくなのだ。 禊ぎの代わりにと手早く皆でシャワーを浴びて、今日の活動に備える。 ……乙女の入浴を“覗く”等という愚行は、よもや侵すまいな?んぅ? 「全く、私もそうだがお前達の躯も酒でベトベトではないか……ほらっ」 「きゃはっ♪マイスター、くすぐったいですの~!クララちゃんも……」 「ん、んんっ……強くし過ぎると嫌なんだよ……さ、アルマお姉ちゃん」 「は、はい……あ、マイスター。ここのツボ押してあげますね……えい」 「ひゃうっ!?く、くぅぅん……なんかコレは、皆で洗いっこ状態だな」 ……等とじゃれ合っていたら、あっという間に数十分が過ぎた。慌てて、 皆の躯を拭いて良く乾かし、今日の為に仕込んで置いた一張羅を着せる。 それは“Electro Lolita”として、新たに試作した神姫用振り袖なのだ。 以前手掛けたオーダーの経験を活かしたそれらは、悪くない出来である。 あくまでサブメニュー的な位置付けの品でも、妥協はせぬ。それが私だ! ちなみに私も、戸棚から引っ張り出した自分の晴れ着を着込んでいるぞ。 「ふむ、どうだ着心地は?なるべく華奢なお前達にも着やすくしたが」 「重さは問題ないですね。動きやすさは……戦闘とかは無理ですけど」 「元より戦闘用なら、デザインの変更が必要なんだよ。コスプレ的に」 「ホックとかで気付けが楽になっているのは、ポイント高いですの♪」 「よし、それでは往こう。私の肩に乗ってくれ、もうそろそろの筈だ」 評判は上々。我が“三姉妹”の笑顔も上々……これが何よりの報酬だ。 神姫達が微笑み、己を内外共に美しく可憐に磨き上げる。これなのだ! ……と、新年への意気込みを新たにした上で、私達は万世橋無線会館の 屋上へと久々に出る事とした。早朝に屋上へと出る目的は、無論一つ。 「おー……間に合ったみたいですの♪真っ赤な日の出ですの~っ!」 「有無。2038年の初日の出だ……さぁ、皆で手を合わせるとしよう」 そう、私が自由に出来る場所で最も高い場所はここだ。そこから、東の 空を見つめ、ビルや街・線路の向こうにみえる紅い朝日へ祈りを捧ぐ。 日はいつでも昇るが、初日の出は一年に一度……やはり気合が違うな。 そして、暫しの静寂。流石の東京と言えども、多少は静かな朝だった。 「……うむ、初日の出はこれでよかろう。朝食を取ったら、出かけるか」 「あ、そう言えば近所の神社に行くって話でしたね。どこなんですか?」 「それなのだがな。なんでも、『神姫の巫女が居る』神社があるそうだ」 「聞いた事あるんだよ。第八弾の先行流出とは違う、“狛犬はうりん”」 「それなら、その神社で御神籤引いてみるのも悪くなさそうですの~♪」 ──────新しい出会い、どんな娘が迎えてくれるのかな。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1033.html
戦うことを忘れた武装神姫 その34.5 <<その34から。。。<< 「いってーーー!!!」 CTaの計らいで、処置のためアンテナショップの控え室へ引っ込んだ久遠の第一声。 右手、なんとか出血は止まったものの、容赦ないほどに腫れ上がっていた。 「これ、どうするんですか? マスター・・・。」 消毒液を持ってきたイオも、びっくりして目を丸くしている。 「こんなに腫れちゃって・・・痛くないんすか?」 「ドゥルシラ触るな! 痛いって言ってるだろっ!!」 苦笑いしつつ左手でドゥルシラを引き離す久遠は右利き。利き手がダメになっているわけで・・・と。 「マスター、腫れが退くまで、私たちがマスターの右手になりますよ。」 イオが、まだ涙顔のエルガを慰めながら声をかけてきた。 「にゃーもお手伝い・・・ひっく・・・するの・・・えぐっ・・・」 「だー!泣くなー!! お前の泣き顔見てるとこっちまで泣きたくなるんだよ。 よーし、泣かなかったら手伝うことを許可しよう。」 痛みをこらえつつ、左手でエルガの頭をぐりぐりと撫でる。 「ホント?」 「うん、ホント。」 久遠の優しげな目に、エルガにいつもの明るい笑顔が戻る。イオもほっと小さく息を付き、 「良かったっすねぇ、エルガさん!」 と、傍らのドゥルシラもようやく緊張が解けて笑顔が戻った。 「うん、よかったのだ! ありがとなの、にゃーさん!!」 「よしよし、笑顔になったな。 それじゃ早速お願いしようかな。 まずは・・・ん?」 久遠が顔を上げると、そこには紙で作った即席のナースキャップを載せたCTaが。 「・・・と、とりあえず・・・あんたの右手が治るまで、あたしも・・・責任持ってお前の手伝いしてやるよ。」 と、顔を真っ赤にしながら久遠の右手の処置を始めた。 「・・・上手いな。」 「まぁね。」 手つきの良さに驚く久遠を後目に、さくさくと処置完了。 「さて、これでよし。 左腕だしな。ヤンチャオの傷もやっておくから。 ・・・それからたい焼きを買ってくるよ。」 左腕をさしだした久遠は、包帯の巻かれた右手を横に振った。 「たいやきだけじゃ、足りないだろ? なぁ、エルガ。」 意味深いにやり笑みを浮かべた久遠の肩に、エルガはもそもそとよじ登り、久遠の顔付きをまねてにやり笑い。思わず身構えるCTaに、びっと指をさしてエルガは言った。 「にゃーさんのいうとおりなのだ。 たいやきじゃ、全然足りないの。 あのね、あそこのケースに入ってるバイクちょうだい!」 CTaは一瞬目を丸くしたが、苦笑いを浮かべつつ、 「はいはい、あたしの権限でなんとかしてあげますよー。」 半ば投げるように答えた。 すると。 「では・・・その上にあります、コンデンサーユニットを私に。」 「あの暗視スコープセットが欲しいっす!」 イオとドゥルシラまでもが要求。 ひきつった笑みになったCTa、顔を上げれば・・・ 「自業自得。諦めるんだな。」 笑いをこらえているのがあからさまにわかる久遠の顔。 ・・・肩を落としたCTaは、懐を探ってカードを取り出しイオに渡した。 「ほらよ。 ・・・いいか、いまお前らが言ったその3つだけだぞ!!!」 「はーい!」 エルガ・イオ・ドゥルシラは、3人揃って返事をすると、キャッキャと店舗へと駆けていった。 「ところでさ。 おまえん所にもう一人寝られる余裕はあるか?」 久遠の左腕に包帯を巻きながら、CTaはぼそりと尋ねた。 「は?」 「さっき言っただろ、責任持って手伝うって。」 「はぁ?」 「だーかーらっ! ・・・1週間くらい、泊まり込みで手伝うっていってんだよ!」 腫れている久遠の右手をバシバシと叩くCTa。 「いでででっ!!! わかったわかった! わかったから叩くなっ!」 「で。余裕はあるのかないのか! どっち?」 「神姫と一緒でよければ。」 「よし。じゃ、あとでお前ん所に行くからな。 ・・・勘違いするなよ! 一週間だけ、手伝うだけなんだからなっ!」 左手の包帯を巻き終えたCTaは、顔を真っ赤にしながら久遠を見ることなくその場を後にした。 「これは・・・ 普通は喜ぶべきシチュエーションなんだろうけれど・・・」 包帯が丁寧に巻かれた右手と左腕を見つめる久遠は、大きくため息ひとつ。 「・・・あいつのことだからなぁ。。。」 今夜から彼の神姫たちとCTaの間で、間違いなく「バトル」が繰り広げられるであろうことを想像し- -いかにして近隣に被害を出さないようにするか。 早くも対策をあれこれと考える久遠であった。 <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1688.html
紫風の尖姫──あるいは誇りと誓い(前半) ──“妹”になる事は出来たわ。でも、それで満足しちゃいけないのよ。 その名に恥じない生き方……大好きな人達に胸を張れる姿を、見せる事。 それが出来た時、アタシ達は嬉しいから。皆に、笑ってほしいから──。 第一節:挑戦 その日は、朝から晴れ渡っていた。今時珍しい都心での猛吹雪は終わり、 残雪がまだ道路の端々に残っていた……これは太陽が融かしてくれよう。 というわけで私・槇野晶と“四人の妹達”は、外出準備に追われていた。 「マイスター、エルナちゃんもお風呂から上がりましたの♪ほらほらっ」 「え、良いわよロッテお姉ちゃん。自分で拭け……ってちょっとぉ!?」 「そう言わないでください、今日はエルナちゃんの大切な日ですから!」 「有無、今日はエルナのセカンド昇進を賭けた大事な試合ではないかッ」 「……だから身嗜みも、ボクらの“妹”に相応しく可憐にキメるんだよ」 そう、行き先は神姫センターである……あの“悪夢”を越えて、真っ当な “武装神姫”として歩み始めたエルナは、当初こそ慣れない戦場で連敗を 重ねたが……現在は破竹の勢いで、セカンド目前まで迫っていたのだな。 昇進可能なレベルに達した時の、エルナの言葉は今でも忘れていないぞ? 『アタシにも、矜持があるわ。お姉ちゃん達から受け継いだ“誇り”が』 “姉”達の戦う勇姿を見て、エルナもまた自分のスタンスを掴んだのだ。 それを一々語っていると、センターの開場に遅れてしまうので割愛するが いやなかなか……不屈の精神を見せるエルナの言葉は、感動的だったぞ! 「……マイスター、マイスター?妙にニヤニヤしてどうしたのかな?」 「どわ゛ッ!?げふげふ……な、なんだクララ。脅かすんじゃないッ」 「あ、ひょっとしたらこれから戦うエルナちゃんの艶姿を描いて……」 「“魔剣”は無くても、エルナちゃんは頑張り屋さんですから~っ♪」 「な、何言ってるのよ!アルマお姉ちゃんとロッテお姉ちゃんッ!?」 ……いかんな、ついつい“妄想”が。まぁ、それは兎も角だ。己の全てを 晒け出し合ってから、私達の“仲”はより一層親密となっている。今日は それを見せる時ではないが、結束は強固だ。皆、それを実感しているッ! 「全く……じゃれ合うのもこの辺にせんとな。そろそろ出かけるぞ?」 『はいッ!!!!』 そんな暖かい想いを抱きつつも、私達は“春の新作”を纏って秋葉原へと 繰り出す。機材運搬用のカートは、30%増となって迫力が増していた。 ……今日はエルナの試合だけだが、万一と言う事だって有り得るのでな? 「うぅむ、自転車を展開するのは……流石に危険だな。この積雪量では」 「アタシの分だけ持ってくればよかったのに……律儀よね、マイスター」 「それがマイスターの持ち味なんだよ。電動補助もあるし大丈夫だもん」 「でもマイスター、折角のドレスを汚さない様にお願いしますの~……」 「地面はドロドロですからね、転んだら……結構大変ですよね、これ?」 「分かっている。よ、とととっ……慎重に行けば、どうにかなるだろう」 私の両肩と両胸のポケットから、“妹”達が私を気遣ってくる。御陰で、 楽々……とはいかないが、どうにか神姫センターには無事に辿り着けた。 早速エルナの“昇進”を申し込むが……これもすんなりと行かない様で。 「あ、はい槇野晶さんの……エルナですね。対戦相手はあちらの方です」 「何?もう先客が居るのか。何やら、口論している様にも見えるが……」 受付担当が指し示した先で、何やら娘さんと神姫が騒がしく叫んでいた。 だが仲違いをしている、という程ではない……いや、これはむしろ……? 「だから、折角の試合なのにまた“アレ”をやるの?!いいじゃない!」 「折角の挑戦相手なんだから、良い物持ってるかもしれないじゃない!」 「……痴話喧嘩、ですの?仲が悪そうには、とても見えませんの~……」 『何ッ!?』 「わ!?な、何じゃなくって!その、貴女達がアタシの対戦相手よね?」 ロッテの突っ込みに、二人が振り返る。その剣幕に退いたのはエルナだ。 だが、程なく調子を取り戻し語りかけた。未だ人間不信の嫌いがある物の 私や“姉”が側にいる場合は、多少なりとも普通に会話が可能なのだな。 「対戦相手って……あ~!昇進申し込んでたけど、試合決まったのね!」 「こらアールヴ、申し込んだのはあたし・光でしょ!……槇野さんね?」 「有無……私達を知っているのか?如何にも、槇野晶とその“妹”達だ」 話を聞くに、マスターの向坂光(こうさか・ひかる)と神姫のアールヴは、 去年からずっと私を追っ掛けているらしい。主に服飾デザイナーとして、 昨春のイベントにも買い付けにやってきた客の一人らしいのだ……むぅ。 「光栄、晶さんの神姫と戦えるのね!……アールヴ、やっぱやめるわよ」 「何言ってるのよ!この人達なら、とっても良い物作ってくれる筈よッ」 「……えと?話が見えないですの。どういう事ですの、アールヴさん?」 「あ~、あのねロッテちゃん。あたし達は“賭け試合”をよくやるのよ」 そんな二人が再び喧嘩を始めそうになったので、ロッテが割って入った。 光とやらは、苦虫を噛み潰した様な表情で説明を始めた。一方アールヴは 喜色満面である。どうやら“賭け”とは、彼女主導のアイデアらしいな。 「でさ、この“昇進試合”でも賭けをしたいなって相談してたのよね!」 「相談と言うより、痴話喧嘩だよ……で“賭け”って、何をなのかな?」 「武器よ!倒した神姫が持ってるよさげな武器を、頂戴するってわけ!」 「……あたしは、それを元にこの娘を強化出来るからいいかなーってね」 だが、彼女はすっかり味を占めてしまい……マスターとしても“神姫”を 強化する“ヒント”を得る手段は重要な為、結局はノリノリらしいのだ。 言われてみれば、“フィオラ”の上に見慣れぬ装甲を纏ったアールヴは、 現存・販売されているどのタイプとも違う、独自の素体を使用している。 この向坂光とやら、顔に似合わず『出来る』マスターかもしれんな……。 「所謂“弁慶さん”なんですねぇ。で、エルナちゃんにも賭けを……?」 「そうよ!光憧れの“マイスター”から武器をもらえるなら、最高ッ!」 「いや、あのねアールヴ?憧れてるからこそ、ちょっとアレなのよ!?」 「何よぉ。銀と衣のアーティストだ、って何時も褒めてるじゃないッ!」 その彼女らが、私達に一目置いているのはよくわかった。だが、これでは 何時まで経っても協議が進まぬ。途方に暮れた所で口を開いたのは……。 「……いいわ、やってあげる。アタシは“魔剣”もないから丁度良いし」 「エルナ!?……お前、良いのか?この様な誘いに応じてしまっても?」 「構わないわ。ちょっと腹案があるし、ね……いいでしょ、マイスター」 エルナだった。彼女は悪戯っぽく、琥珀色の瞳をウインクさせ懇願する。 彼女自身がいいというのであれば、全く問題はない。エルナが言う通り、 “魔剣”の調達をしていない彼女には、替えの利かぬ装備もないが……。 「分かった、勝ってこいよ?丹誠込めた武装だ、盗られては困るからな」 「う、うん……だから、無事に守り通せたら……その、ね?えっと……」 「エルナちゃん。紅くなっちゃダメですの。それを言うのは勝った後♪」 「わ、分かってるわよっ!……というわけで、応じるわよアールヴさん」 だが、私がエルナのリクエストに応じ産み出した武装は、彼女が何よりも 大切にしている……それを危機に晒しても、伝えたい事があるのだろう。 その決意を感じ取ったのか、私達は徐々に真剣な眼差しとなっていった。 「OK!まず昇進試合自体は保留して、重量級ランクで戦いましょっ!」 「ふぅ……で、そこで勝った神姫が、昇進試合で先制攻撃を与えるのよ」 「その上で昇進試合に勝った方が、負けた方に要望を出すのッ!どう?」 「よっぽど重量級に自信があるのね?……分かった、初陣だけどやるわ」 そう。エルナは通常の、所謂“軽量級”を一日何度も戦って現在の地位に 至っていた。結果時間が足りず、重量級ランクは登録だけという有様だ。 それを知っているのかどうかは定かではないが、不利と言えば不利だな。 しかしすっかり“姉”達に感化されているエルナは、強気な姿勢のままに 重量級ランクのバトルを予約し、割り当てられたブースで準備を始めた。 「“ティアマル”の能力は、エルナ……お前次第だ。分かっているな?」 「ええ、お姉ちゃん達の“龍”にも引けを取らないじゃじゃ馬だものね」 「じゃじゃ馬と言えば……光さんとアールヴさんも結構アレなんだよ?」 「アレで息が合っている辺りは、似た者同士なのかもしれんな……有無」 ──────だけど負けない。私達の想いを受け継いだ、この娘はね? 第二節:宝石 重量級のブースに光が灯り、手を振るエルナがゲートから下降していく。 私は、サイドボードにエルナ専用のボックスをセット……指示を出せる様 インカムを装着して、宴の開幕を見守る事とした。舞台は、古城の孤島。 建物内にこそ侵入出来ない物の、起伏に富んだ広大なフィールドである! 『エルナvsアールヴ、本日の重量級リーグ第1戦闘、開始します!』 『……エルナ、まずは有利な位置を取れ。得意技を見せてやるのだ!』 「ええ、分かってるわ。じゃあ、暫く通信封鎖するわね?」 『3……2……1……GO!!』 ヴァーチャルフィールドへの扉が開かれ、エルナが庭園へと駆け出した。 彼女から視線を移すと、港の方から駆け上がってくる黒い神姫が見える。 そう、アールヴだ!彼女は、黒く巨大な戦斧を抱え走り込んできたのだ。 「さぁーて!今日も一丁やらせてもらうわよ……って、あれ?」 『居ないわね?……って、危ないアールヴ!二時の尖塔よッ!!』 「へ?……きゃうっ!?」 だが、意気込んだ彼女を光の弾丸が強かに打ち付けた。高密度圧縮された プラズマ弾だな。“ロキ”が私を撃った銃よりは弱い威力だが……しかし 有効射程と命中精度は、スナイパーライフルとして通用する性能である。 無論、撃ったのは……尖塔の頂上にて匍匐射撃の姿勢を取るエルナだッ! 「まずは命中、っと。でも、致命傷にはなってないわね……」 「こ、このぉっ!降りてきて正々堂々勝負しなさいよ!」 「愚直に突っ込むだけが、正々堂々じゃないわ。“シャノン”!」 『Roger(突貫します)』 「え?きゃん!?こ、今度はぷち……じゃない、“アルファル”!?」 己の得意分野を最大限発揮し、手を抜かぬ事。それこそが、礼儀なのだ。 それを証明するかの様にエルナが呼びだしたのは、彼女を護る“騎士”! 彼女……“シャノン”は、左膝に備わったアンカークローをアールヴへと 打ち込み、巻き上げの力を使って右膝を彼女の顔面へと叩き込んだのだ! 『うわ、あのシャイニングウィザード……晶さん仕込み?』 「マイスターだけじゃないわ。アタシも、教え込んだのよ……ふっ!」 『“W.I.N.G.S.”……Execution!』 「く、離れなさいよぉっ……このっ!!」 『Roger(時間は作れました)』 更に腕部に仕込んだナックルで殴りつけようとするが、これはアールヴの 斧により退けられた。全身の躯に羽を持つかの様な、鋭角的なフォルムの “エルナ専用アルファル”シャノンは、塔から降りてきた主の元に侍る。 そのエルナは落下中に“レーラズ”等を纏い、完全武装姿となっていた。 “セイクレール”をも装着した、可憐な“紫の竜騎士”の姿となってな! ただ、エルナのリクエストに応えてスカートの丈等全体を調整した服は、 何処と無く……こう、あれだ。給仕の装束に見えん事もなかったりする。 「こんのぉぉ……さっきあたしを撃った銃が、それね?!」 「そうよ。でもこれは、形態の一つ……たっぷり、見せてあげるわ」 「その前に叩き潰してあげるわよっ!出てきなさい、ドヴェルグッ!」 『ギャオオオンッ!!』 エルナが、スナイパーライフルを分解して腰に下げる。その態度が相手に 火を付けたのか、アールヴの重量級用モジュールが繁みから姿を見せた。 それは、奇遇にも“龍”だった……しかも、ラプトル風の騎乗対応型だ! 「うわ、ゴツいわね……それが、貴女の相棒?」 「そうよ。そしてこの“セブンスムーン”が……あたしの得物!」 「えっ!?お、斧が組み替えられて……ランスに!?これはっ……」 「“アルファル”が組み換え武装なのは知ってるわ!だからお互い様ッ」 相当ゴツイ騎乗槍を軽々と振り回しながら、彼女は龍へと飛び乗った。 龍の方も、パーツ構成を見る限りシングルタスクでは無さそうだ。仮に 単一形態型であったとしても重火器を装備したその勇姿は、重戦車とも 形容出来そうな迫力を持っていた……見かけ倒しでは、なさそうだな。 「さ、こっちの番ね……ハイヤァアアアアアッ!!!」 『む……いかん、避けろ!パワーがハンパではないぞ!』 「オッケー、マイスター!シャノン、“マタドール”よ!」 『Roger(タイミングに気を付けて下さい)』 龍が大地を蹴り、更にマシンガンやレーザーを打ち込みながら一気呵成に 突撃を仕掛けてきた。だが、シャノンは勿論の事……エルナさえも、服に 仕込んである従来同様のブースターを使い、巧みに懐へ潜り込んでいく。 そしてギリギリの所で跳んだエルナ・シャノンと、アールヴが交錯した! 「せーの……せぁっ!!」 『Roger(攻撃します)』 「銃が、剣に!?このッ、はぁああっ!!」 エルナの手には、先程の銃があった……否、バスタードソードに変形した それは単なる銃ではない!彼女専用の複合武装なのだ。更に、シャノンの 両手には、腰から引き出した片刃式のマチェットが双振り握られている。 衝撃波を伴って突き進むアールヴに、彼女らは更なる攻撃を加えたのだ! 「うわ、っとと……痛、ちょっと無茶しちゃったかしら?」 『So bad(僅かに遅れました、損傷があります)』 「痛ぅ……よ、余裕見せてるじゃないの。あれだけの軽業見せといて!」 お互いが距離を取り、受けたダメージに顔を顰める。相打ちの様だった。 突進の勢いに呑み込まれたエルナは、腕に掠り傷を負っている。恐らくは 刃を剥き出しにしたランスが掠めたのだろうな。反面、アールヴの方には 装甲の傷が見られる程度。だがこの戦法こそ、エルナの“真価”である! 「そりゃそうよ。アタシの真価は“超高速戦闘術”なんだから……!」 「ちょ、ちょう……何それ?」 「今から見せてあげるわよ、シャノンッ!!」 『Roger(支援します)』 「う、うわっ!?」 『ギャオッ!?』 その一端を見せようと、エルナは駆け出していった。それを追う様にして シャノンが、円盤……正確には五角形の“宝石”型へ変形し、飛翔する。 舞い上がった飛翔体は、機体から迫り出したレーザーマシンガンと拳銃で “光の姫”と“闇の龍”を牽制した。その隙を、彼女は狙っていたのだ! 「ほら、何処見てるのよアールヴさんっ!!」 「うぅ……え?」 『バカ、上よアールヴッ!!』 「そらそらそらっ!!」 「きゃあああぁあっ!?」 駆け出していたエルナは、強く跳躍し……空中で反転したシャノンの背を 蹴って、アールヴの頭上を抑えていたのだ。そこから繰り出されるのは、 先程の剣……から更に変形した、二挺のライフルによるプラズマ弾攻撃。 マシンガンの様に浴びせられる“光”に、堪らずアールヴが暴れ出した! 「いい気になってるんじゃ、ないわよぉっ!!!」 「う、うわっ!?きゃううっ!?」 『エルナッ!!大丈夫か!?』 「う、受身は取れたわ……でも、今度は刃の鞭になってるわねアレ」 「まだまだ、行くわよッ!それそれぇっ!!」 襲いかかった“黒い蛇”はエルナを撃ち落とし、更に追撃する。そうだ、 アールヴの持つ突撃槍が、今度は長大な鞭に変化して襲いかかったのだ! 間違いない。相手も複合武装の使い手なのだ。となれば、手数が鍵だな。 「く……派手にやってくれるわね、あの娘!」 『エルナ、出し惜しみはせんでいい。全てを見せるつもりで挑め!』 「ん?……いいのね、全部出しちゃって?」 『嗚呼。上空に“ティアマル”を展開してある、合流しろ!』 「分かったわ!シャノン、アタシを空にッ!」 『Roger(乗って下さい)』 「逃げてないで戦いな……きゃうっ!?こ、今度は何!?」 私はそう直感し、エルナの重量級モジュール“ティアマル”を投下した。 晴れ渡った孤島の上空には、薄暗い“龍”の影が見える。エルナもそれを 発見し、すぐさま合流の為にシャノンを呼び戻した!彼女は咄嗟に反応、 今度は戦闘機の形態となり、レーザーでアールヴを威嚇しつつ突撃する! 「サンキュ、シャノン!そのまま、ティアマルの側までッ!!」 『Roger(加速します)』 「ま、待ちなさいよ!……ひゃっ!?な、何これ。鏡の……刃?!」 「ファントム・グレイヴ“鏡刃”。アタシの“簡易魔術”って所かしら」 「な、“魔術”ってどういう事よ?!その武器、一体なんなの!」 撃墜しようとするアールヴの気勢は、目の前に降ってきた三つの刃により 殺がれる事となる。投げつけたエルナの手には、先程の銃……に加えて、 銃のホルダーをも合体させ、更に変形させた……無骨な“杖”があった。 そしてエルナの背後に、白と紫に彩られたシルエットが見えてくる……! 「これは“影羽”フルネレス。魔剣の代わりに、産み出された武器ね」 「魔剣の……あ、あれって彼女のモジュール……!?」 『アールヴ、気を付けて!やっぱり向こうも“龍”よ!』 「そして、この娘が……“嵐皇龍”ティアマル!アタシの相棒ッ!」 『ケェェーン……ッ!!』 ──────私が丹誠込めて作った娘達、頑張って……! 第三節:騎兵 戦闘機形態のシャノンとエルナが向かった上空には、歪な形の龍が居た。 全体的なフォルムは“ファフナー”に近いが、角は上下四本に増えており 首は蛇腹状の細い物となっている。更に、燕の様な形状の大きな翼を広げ 背びれ等も備えていたティアマルは、他の“龍”とは明らかに違う姿だ。 『パーツ構成は、所々槇野さんの既製品に似てるけど……まさか』 「そうよ光さん。この娘もシャノンも、フルネレスも余剰パーツ製!」 余った部品で作られた事実。それはエルナ達にとって、誇りですらある。 曰く『お姉ちゃん達の因子を受け継いだ形で、アタシも戦えるのね』と。 だが、ただ後を追うだけでは芸がない。無論、彼女なりの“魂”がある! 「だけど、得た力は正真正銘アタシの物……アタシの、誇り!」 『Roger(合体します)』 「ッ!?た、確かにそのアーマー姿は……今までと違うわね」 『ケェェーンッ!』 それを示す為か、エルナはシャノンを鎧として纏った。全体的に鋭角的な フォルムであるシャノンは、同じく鋭角的なティアマルともデザイン的な 相性が非常によい。だが、決してそれは外見だけではない。左手に従来の 二枚分を接続した改良型の“ティンクルスター”を、右手に杖の様な形の “ティンクルスター”を携えたエルナは、アールヴを挑発してみせるッ! 「さ、それ飛べるんでしょ?受けて立つわよ!」 「なら、行ってあげるわ!ドヴェルグッ!!」 『ギャオオオンッ!!』 「まずは、小手調べよッ!!」 その挑発にアールヴは乗り、騎乗していた龍をレシプロ機の姿に変える。 エルナと私の読み通り、龍の方も多段変形するタイプだったのだ。彼女は 迫り出したプロペラを勢いよく回転させ、ミサイルを連射しながら飛ぶ! 「う、うわわっ!?高機動型のマイクロミサイル……でも、遅いわッ!」 「そっちだって遅いわよっ!じゃあ、こっちはどうっ!!?」 「ッ!?マシンガンの方は本物ね、喰らってられないわ……!」 「ふふん、どうよっ!ほら、逃げなさいッ!」 エルナは右手の“槍”からプラズマのジャベリンを産み出し投擲するが、 アールヴも、レシプロ機とは思えぬ運動性で回避しつつ機銃を撃ち込む。 単なる機銃ではない、ヴァッフェバニータイプのミニガンに匹敵する力を 持つ弾丸に、エルナは堪らず背を向けて飛ぶ。一方のアールヴは強気だ! 「あははっ、ほら!ほらほら、撃ち落としちゃうわよッ!」 「へ?きゃぁっ!?か、鎌を投げつけてくるなんてどういう事!?」 『む、あの“セブンスムーン”とやら……動力機関を備えているぞ!』 「動力機関!?アレ自体が、意志を持った相棒って訳ね……!」 「そうよ、何ならもう一回投げてみせる!?っとと……」 先程まで鞭だった超巨大武器が、今度は推進器を備えた死神の鎌として、 超高速で飛翔するエルナを捉えようと飛びかかる。流石に掠めた程度で、 大事には至らなかったが……背後を取られたままでは、不利だと言えた。 『エルナ、龍である特性をうまく活かせッ!』 「りゅ、龍?……そうよね、あっちは今戦闘機。でも、アタシはッ!」 「わぁっ!?反転した……避け、ないとっ!?」 「竜騎士なのよ!ティアマル、“フォールダウン”!」 『ケェェェーンッ!!』 「間に合わ……ッ!きゃああああっ!!?」 「今度はアタシが追う番よ!サーベラス・ランシア“闇迅”……ゴー!」 だが、流石戦闘その物には慣れているエルナだ。私の短い指示で、咄嗟に 龍の体躯を反転させ、そのまま“竜の吐息”を撃ち出したのだ。エルナの 相棒・ティアマルが備えるのは、名前通りの“圧縮空気弾”。追ってきた アールヴ達は、突然発生した暴風によって吹き飛ばされ、失速を始めた! それを追い掛け、エルナは“三条の黒槍”を打ち込む。“簡易魔術”だ! 「ふぇ?き、きゃああああっ!?な、何よこの黒い槍ってッ!?」 『クララちゃんが使う様な重力弾ね。でも、どうやって使ってるの!?』 「アタシの“カン”自体は死んでないって事よ……限定的でもねっ」 『有り得ないわ、だって普通に使おうとすれば外部装置が……あ!?』 「そう言う事。装備とアタシ自身で分担すれば、不可能じゃないわッ!」 “決戦”の時にクララの技を見た彼女は、自前で“魔術”を使っている。 それは焼き切れた補助演算装置の支援による物であり、今のエルナ自身は クララの様に単独で“魔術”を編纂出来ない……そう、“単独”ではな。 つまり誰かがコードを編纂して、外部装置に記録してやればいいのだッ! 「……クララお姉ちゃんが、アタシの為に仕立てた七つの“魔術”!」 『姿勢を立て直しなさい、アールヴ!次が来るわよ!』 「これが“姉妹の絆”の力よ!ファランクス・レイン“光陣”ッ!!」 「くっ……ひゃああっ!?こ、今度は雷の雨!?調子に乗るんじゃ……」 『む、いかんエルナ!“魔術”を中断して回避するんだ!』 「ないわよっ!借り物の力でっ!!」 「えっ!?きゃうっ!!」 『ケェンッ!?』 だが絡繰りがバレてしまった以上、彼方も黙って喰らう気はないらしい。 翼端でブースターの様にぶらさがっていたレーザーキャノン達が、一斉に エルナ達を撃ったのだ。カウンターを喰らう格好となったティアマルは、 防御システムでダメージこそ大きく減殺しつつも、墜落を免れなかった。 それはアールヴ達も同様であり、龍の姿になって不時着する格好となる。 僅かな時間差で、エルナもどうにか龍の四肢で不時着に成功したが……。 「……借り物だなんて、言ってくれるわね。これはアタシの“力”よ」 「だってそうじゃない、貴女一人じゃ“魔術”は出来ないんでしょッ!」 「いいえ。倒した相手のノウハウを奪い取る貴女こそ、借り物なのよ」 「むううう~……言ってくれるじゃない。じゃあ、これはどうっ!」 雰囲気は剣呑な物となっていた……と言ってもエルナの目は至って冷静。 眼光に気付かぬアールヴは、ドヴェルグの頭部を、別の形に変形させた。 なんとそれは、巨大なレーザーキャノンのバレルだった。鞍から出した、 グリップらしき銃を接続させて、有り余るエネルギーを蓄積させていく! 「奇遇ね。こっちも、同じ機構を備えてるのよ……ティアマル!」 『ケェェェーンッ!!!』 「う、嘘!?頭と角が……ランチャーのバレルに!?」 「お互い様じゃない。さ、砲撃勝負と行きましょ?」 だが、本当に偶然なのだが……ティアマルも全く同じ機構を備えていた。 携行武装のレーザーランチャーを強化する、バレルの展開機構としてな。 ティアマル自身の追加装備故に、使うのはこれが初めてなのだ。嵐の龍は 己の四肢をしっかりと石畳に食い込ませ、エネルギーをチャージさせる! 「行くわよ……3!」 「……2」 『1、フォイエルッ!!』 「行っけぇ……!ダインスレフ・フルバーストッ!!」 「蹴散らしちゃいなさい、ノー・フューチャァァアッ!!」 そして、二つの閃光が放たれた。エルナは文字通りの紫電を纏い、対する アールヴ達も光の粒を撒き散らしながら、極太のレーザーを撃つ!そう、 この筐体は、試験的に“オーロラ・エフェクト”が実装されているのだ! エフェクトによる煌めきとレーザーの光が相俟って、孤島全てが光の中に 沈み込んでいく……二人の姿が見えてきたのは、数十秒も後の事だった。 『エルナ、エルナッ!ダメージは……まだ立てる量だ、大丈夫か!?』 「ううぅ……どう、にかね。この娘らも、まだまだ行けるわよ」 『ケェーン……ッ!』 鳥の様な鳴き声を挙げて、再び異形の龍が姿を見せる。全体的な駆動率は 問題ないが、ヴァーチャルフィールドに於けるダメージ量という意味では エルナが若干不利な結果に終わった。このままでは、押し切られかねん。 だが、そんな彼女を力強く奮い立たせたのは……アールヴの一言だった。 彼女もまた圧力に押しやられ、庭園にあった柱に突っ込んでいたのだな。 「痛……決めたわ、勝ったらその娘をもらうわよ!」 「……さないわ」 「ん?何?」 「マイスターが産み出してくれた相棒は、渡さないって言ったのよ!」 ──────紫電の様に激しく、でも紫水晶の様にクールに……だよ。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1484.html
僅かな慢心、産まれた闇(前半) 歳末も押し迫ってきた頃。私・槇野晶率いるMMSショップ“ALChemist”の 面々は、順当に重量級ランクを勝ち進んでいた。無論負ける時も有ったが 勝率の方が大分上である現在の所、皆の自信は相当強固になっているな。 だからだろう。私も皆も、ロッテの試合日であるその時は浮ついていた。 「さぁ、マイスター!今日も貴女に“勝利”をプレゼントしますの~♪」 「ふむ。相当強気だなロッテや、今回の相手は多分……お前も驚くぞ?」 「大丈夫ですよマイスター、ロッテちゃんなら今回も勝っちゃいます!」 「……でも全員気を付けて、弛緩しすぎた空気は……隙を産むんだよ?」 クララは恐らく気付いていたのだろう。本当に僅か、極々僅かな綻び。 それは、勝利に酔う者が陥りがちな慢心という“罠”……否、違うな。 普段のロッテが、高慢になった訳ではないぞ?至って彼女は普段通り。 だが、この時の空気は確かに弛緩していた……嫌な予感も、するのだ。 「む、そうか……ロッテや。気を緩めるなよ、こう言う時こそ肝心だ」 「大丈夫ですの。勝てる気がしますの、だから……帰ったら……いえ」 だからと言って、こうしてオーナー席に着いた今……辞退は出来ない。 故に私は、何か言いたげなロッテを笑顔で戦場に送り出す。今回は…… また高空フィールドだと?!相手が“彼女”ならば、有り得ぬ筈だが。 『クララvsフリッグ、本日の重量級リーグ第14戦闘、開始します!』 「え?“フリッグ”って……あのフリッグさんですの?!」 「そうだロッテ、お前の初陣を務めた相手だ。気を付けろ!」 『3……2……1……GO!!』 「は、はいですの……」 『“W.I.N.G.S.”……Execution!』 「ウィブリオ、来てくださいですのっ!」 『キュイッ!!』 ゲートが開き、ロッテが大空に舞う。それと同時に、彼女は龍を喚んだ。 フリッグ……サイフォスタイプをアレンジした神姫。ロッテの記念すべき 初戦を務めた娘だ。無論この場合は、従来の“軽量級ランク”での初戦。 つまり、私が初めて戦った神姫……とも言えなくはない。しかし、彼女の 飛行能力は凡庸だった筈。それが、飛行タイプ専用の高空フィールドに? 『キュ、キュィ……?』 「……サイフォスタイプなのに、飛翔しているって事ですの?」 「如何にも!“大剣士”フリッグ、先手を頂くぞッ!!」 『しまった……!?上だ、ロッテッ!!!』 その謎は、大きな代償と共に知る事となった。太陽を背にして、何者かが 急降下してきたのだ!ロッテの意識が強襲を察知する、が……遅かった。 「推して参る!“斬機剣レヴァンテイン”!ハイヤァァッ!!!」 「き、きゃぁあああっ!?」 『キュィイイッ!!?』 『ロッテ、ウィブリオッ!?』 降下してきた白と青の剣、“ネオボードバイザー・ソードダンサー”が ウィブリオの翼に体当たりを仕掛け、その上に乗っていたフリッグが、 駆け抜け様……ロッテの胸元を強かに切り裂く!その威力は凄まじく、 ダメージを計算すると、クリティカルヒット扱いとなったそれは……! 「ぅ、ぅ……七割も持って行かれましたの。ウィブリオ……ッ!」 『キュ、キュゥゥ……!』 「ふむ……久しいな、ロッテ。そなたの活躍、色々と聞き及んでいる」 「フリッグさん……この技、まさか重量級に特化しましたの……?」 「如何にも。モジュールと神姫を同時に攻撃する、“先の先”の技だ」 数値的にも甚大な被害だが、全く知覚していない領域からの“奇襲”は、 ロッテとウィブリオの戦意を、大きく殺いだ。戦闘中はずっと不敵だった 彼女が……ロッテが珍しく、焦りと恐れの色を見せる。意外な姿だった。 その恐怖は、距離を取って何事かを語りだしたフリッグにより増大する! 「しかし、勇ましく強いが……少々私は残念に思うぞ、ロッテよ」 「ざ、残念……!?何故、そう思いますの?」 「“驕る魂”と“惑う剣”を携えているからだ」 「え──」 圧倒的なアドバンテージを取った余裕か、それとも衷心故か。フリッグは ボードの上に乗ったまま、手負いのロッテに語る。その眼には、哀しみ。 否……訂正しよう。彼女は本当に衷心故、ロッテに奇襲を仕掛けたのだ。 その結果を見極めたフリッグは、賢者の如くロッテの“綻び”を告げる。 「恐らく未だ、自身も気付いていないのだろう。間に合って良かった」 「あ、貴女は……何を、言っていますの……?!」 「戦士の魂に相応しい、勇猛さと大胆さに技術。これは申し分ない」 『キュ……?』 「だが初めて戦った時には持っていた、高潔さ。それに曇りが見える」 「ぁ……っ!?」 ロッテが左手で口を塞いだ。成程……ロッテは未だ“挫折”を知らない。 アルマとクララは、一度己のアイデンティティを揺さぶられた事がある。 しかしロッテにはそれが無い。だが、知らぬ故の慎ましさ……それを以て 彼女は高潔に生きてきたのだ……その筈、だった。だが、戦い続ける内に 保ち続けてきた“何か”が、少し摩耗しつつあった。そう言う事だろう。 「“惑う剣”については、もう少し刃を交わしてから語ろう。往くぞ!」 『ロッテ、己を保て。正気に戻るんだ!』 「は、はいですの……フリッグさん、貴女は何を伝えたくて……!?」 『キュ……ッ!!』 ──────これは多分、貴女の為の試練だよ。 次に進む/メインメニューへ戻る